「えっ? 僕が悪いの? だったらもう二度と・・・。」
と声には出せなかったけど、心で思ったことがある。
僕が、小学校2年生くらいの集団登校の時だ。
すぐ近所に3歳年上の障がい者がいた。
今思うとダウン症だったのかなと思うが、その時は障がいの種類とかは知らなかったし、興味もなかった。
ただ周りの大人たちから
「何かあったら助けてあげてね。」
と言われていたし、なぜか彼と遊ぶときは母親がいつもついてきていたし、彼が養護学級という違う学年が混在する教室にいたので
「何で分かれてるんだろう? ふつうの授業がわからないのかな?」
「それなら少し優しくしてあげよっかな。」
くらいに深く考えず接していたと思う。
集団登校で学校につくと、いつも先生が彼を迎え入れていた。
その先生のところまで彼を届けるのが同じ地区に住んでいる者の役目だ。
彼は、たまに車道に飛び出すので、腕や服をひっぱって元の位置まで戻してあげた。
車が通るときは安全が確認できるまでいっしょに停止する。
忘れ物があったら彼のかわりに、僕がダッシュで取りに帰ってあげるなど、今から思うと過剰にがんばっていた。
その頃はそれが当たり前だと思っていた。
当時、僕は集団登校のメンバーの中では年下の方だったので、障がいのある彼の安全を守ることは6年生や5年生の高学年がやればいいのになと思っていた。
しかし、その先輩たちは、ふざけたり、皆のペースで歩いてくれなかったりしたので、小さいながらに、さっさと自分でやる方が早いなと感じていたのだと思う。
「おはようございます!」
校門ではあいさつ運動で係の生徒や先生が立って大きな声であいさつをしている。
彼は虫が大好きだ。
カブトムシがとれたら彼にもっていってあげる。
すると、とても喜んでくれて、自分の肩にさげた黄緑色の虫カゴの中に入れて、色んな角度から眺めては嬉しそうに笑っていた。
その日、校門の近くをトンボが飛んでいた。
そのトンボは僕の黄色い帽子にとまった。
彼はトンボをつかまえようとしてツバをつまみ僕の帽子をとった。
トンボは高く舞い上がり “ただの帽子” と化した黄色い物体にもてあました彼は、通学路横の川ぞいの公園へそれを投げた。
帽子は川の近くに飛ばされたが、どこに落ちたかは上からよく見えなかった。
「やばっ! 先生! 公園へ帽子を取りにいってきます!」
「ん? なんで公園に君の帽子があるんだ?」
「え~っと・・・。トンボがとまって・・。」
「嘘つくな! ふざけて遊んどっただけだろ! バカ者!! 早く取りに行きなさい!」

何となくだけど僕は彼のせいにしたくなかった。
ダッシュで帽子をひろってもどると、もう校門には誰の姿もなかった。
始まりのチャイムが鳴っている。
トンボがぐるぐる大げさに回りながら、青い空を飛んでいた。
「えっ? 僕が悪いの? だったらもう二度と・・・。」

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